新緑の癒し手


 聞き覚えのある声音にダレスはヘルバが立ち尽くしている方向に視線を向けると、頭を振る。その後、枝にかけてあったタオルを手に取ると、濡れた髪や身体を丁寧に拭いていく。その動作の最中、フィーナの側にいるはずのヘルバがどうして自分の前に現れたのか聞く。

「様子を見に来た」

「いいのか?」

「彼女は今、王子様のもとだ」

 ヘルバの説明に、ダレスの脳裏にフィル王子の顔が浮かんでは消える。同時に、以前の出来事や周囲の目があるのでお忍びで来られなかったのだろうと、勝手に納得する。またヘルバ同様に、フィーナがフィル王子のもとへ行けばセインの手が及ばないだろうと安堵する。

 ダレスの反応にヘルバは、フィル王子が信頼に値する人物と確信する。やはり何処か引っ掛かる部分があり、ダレスの友人といっても本気でフィル王子を信頼していたわけではなかった。すると心を覆っていた引っ掛かりが取り除かれた時、ヘルバの口から本音が漏れ出す。

 それはフィル王子が王座に就いた後、馬鹿どもの神官を修正という名の粛正を行なって欲しいというもの。過激発言に捉えられなくもないが、聞いている相手が友人だけなのでヘルバは本音を発した。それに対しダレスは悪い反応は見せず、それどころか無言を突き通した。

「これは、お前の為だ」

「俺の?」

「それ以上、身体に傷を増やすな。それに、そうしなければお前は本当の幸せを掴めないぞ」

「わかっている。お前の言いたいことや彼女の気持ちも。フィーナは、俺の身体に半分流れる血を何とかしようとしている。多分、お前にもそのことを言っただろう。そして、最大の障害は世論そののもの」

「そうだ。特に神官だ」

「彼等は、血に酔っている」

 ダレスがそっと指先で触れるのは、フィル王子との勝負で負った傷痕。体内に流れる癒しの血の力を持ってしても傷痕まで消すことができず、痛々しいまでの傷痕をダレスの身体に残す。これについて自分の責任とダレスは言うが、それ以外の傷については口をつむぐ。

 目立つ傷痕は消えているのでわからないが、ヘルバが知っている限りではダレスは何度も怪我を負っている。その原因の大半に神官が関わっており、反撃してこないことをいいことに好き勝手に振る舞い時に暴力を振るう。その度に彼の身体は傷付き、血を流し続ける。