そしてある場所で捲るのを止めると、チラチラと何度もセインに視線を送りつつ書かれた数字を声に出して読み上げる。その数字に何か特別な意味があるのか、サニアの声音が低い。
「それは?」
「ツケよ」
「払っていないのですか?」
「そう」
サニアの説明に、ダレスはセインに冷たい視線を送る。一方セインはツケのことを認識していないのか、キョトンっとしている。この表情をしている者に問い質しても、正しい解答を得ることができないというのを長年の経験で知っているダレスは、再び視線をサニアに戻すと理由を尋ねた。
毎回セインは、金を持たずに娼館にやって来るという。セインは見習い神官で、尚且つ家柄が立派で立場が保障されている――という理由から、サニアはツケ払いを容認していた。
しかし相当の金額が溜まっているので近いうちに全額が払って欲しいというが、生憎手持ちはない。だからといって、セインの代わりにダレスが全てのツケを支払うということはしない。
「ご相談した方が……」
「わ、わかっている」
女神に仕えし見習い神官が娼婦相手に宜しくやっており、更に娼館にツケをしている。この件をナーバルが知ったら――彼は、自身の息子が娼婦を相手にしているというのが許せない。
それだというのに、息子はツケ払いをしてまで欲望に忠実に生きている。自身の立場と一族の名前を優先し大事にはしていなかったが、ナーバルも限界が近い。そして今回、確実に雷が落下するに違いない。
流石にセインも好き勝手に振舞いすぎたと反省しているのか、徐々に血の気が引いていき気まずい表情を作っている。だが、セインに同情の余地はなく、全ては自分が招いた結果だ。
後で支払う。
と、約束するが今までの振る舞いと態度があるので、サニアが簡単に「後で」という言葉は信用できない。それに此方側も商売なので、早めに現金で受け取りたいというのが本音。
提示された金額が金額なので、セイン個人がどうこうできるものではない。この場合、ダレスが指摘した通り父親に頭を下げて支払ってもらうのが一番の得策だが、セインは父親に頼むのを拒絶する。今年で19になるセインだが、幾つになっても父親が恐ろしいようだ。


