神とは何か。
信仰とは何か。
有翼人は特定の神を崇めるという行為を行なわないので、ヘルバは信仰の意味合いに付いて多くの疑問点を抱いている。彼曰く、目に見えない存在を崇めて何の特になるかというもの。
女神に祈れば救いを齎してくれるというが、この状況からして一部の人間しか救いの手を差し伸べてはくれない。全て平等に行なわれているというのなら、フィーナを救って欲しいとヘルバは考える。しかし現実は想像以上に残酷で、得をしているのは女神に仕えている神官。
ああ、なるほど。
ヘルバは、ひとつの結論に至る。
神官がその結論を耳にしたら憤慨するだろうが、この状況を総合するとこの結論が正しい。女神は自分を崇め奉ってくれる人物に対し、救いの手を差し伸べる。それ以外はどうでもいいと考えている無慈悲な存在だと、ヘルバは彼等が崇めている女神イリージアを評価する。
といって、フィーナに面と向かって信仰している女神を罵倒するわけにはいかない。たとえ相手が不条理な条件を提示してくれる女神でも、信仰の対象には間違いない。ヘルバは自身が導き出した結論は胸の中に仕舞うと彼女の肩を叩き、まずはやれることをやろうと言い微笑む。
「いつ、ダレスは……」
「正確にはわからないが、あと数日」
「ダレスが帰って来ましたら、また焼き菓子を焼きませんと。あの時、欠けてしまったので」
「あれは、あいつが悪い」
「いえ、私が悪かったのです。ダレスのことを何も知らなくて、一方的に想いを伝えて……」
「あいつは、君に何も話そうとしなかった。それなら、あいつについて知らなくて当たり前だ。まあ、胸の奥底に仕舞っていたことをあれこれと君に話したんだから、これから隠し事はしないだろう。血の呪縛をどのように伝えればいいか、一番それを気にしていたから」
「そうですね。ヘルバさんが仰るように、今のダレスでしたら隠さずに話してくれそうです」
それが女神のお導きといいたいのか、フィーナは胸の前で手を組むと信仰の対象に祈りを捧げる。ヘルバはその行為に不満があるわけではないが、彼女に救いの手を差し伸べてくれない女神に祈ってなんになるのかと思い「女神に頼らない方がいい」と、注意を促した。


