ダレスは壁に身を預け、セインが部屋から出て来るのを待つ。数分後――耳障りな音と共に扉が開きセインが姿を現すと、背筋を伸ばし相手を出迎える。一方セインはいまだに不満感が拭えないのか、機嫌が悪い。だからといって、ダレス相手に愚痴を漏らすことはなかった。
「さて、行こうか」
「その姿で、宜しいのですか?」
「何?」
「寝癖です」
「えっ!?」
「直した方が……」
「わ、わかっている」
ダレスの指摘にセインは自身の頭を撫で、寝癖の箇所を確認する。着替えている最中は気付かなかったが、後頭部の髪が一房クルっと毛先が天に向かっていた。何度も手櫛で寝癖の箇所を直そうと試みるが、上手く寝癖が直らない。それなら時間を掛けて――といきたいが、時間の余裕はない。
「では、そのままで参りましょう」
「神殿の者に、何と言われるか……」
「どのように隠しても、バレております。ですので、そのままの格好でも構わないはずです」
「ぐっ! 仕方ない」
普段のセインであったらダレスの提案に反論していたが、今回は事情が事情なので素直に従う。ダレスがセインを連れ一階にいるサニアのもとへ向かうと、相手から「今日は静かだった」と、言われてしまう。その言葉にダレスは無言で頷き返すと、サニアは豪快に笑い出す。
正直、サニアもセインの悲鳴を期待していたらしい。あの悲鳴は娼館の一種の名物のようなものらしいが、サニアの意見に間髪いれずにセインが反論していた。ダレスが迎えに来ず、自分の欲望が満足するまで楽しむことができれば悲鳴を上げなくていいと、自分勝手な言い分を述べていく。
しかしセインは「見習い神官」という身分上、このような場所で好き勝手に振舞っていいものではない。また、ナーバルも娼婦相手に宜しくやっていることを嫌っている。と、チクっとダレスが指摘した。相当痛い部分を突かれたのか、自論を語っていたセインが口をつむぐ。
身分や立場ではセインの方が上だが、弁論に関してはダレスの方が上を行き、セインが勝つことは不可能。彼等のやり取りを柔和な表情で眺めていたサニアだが、途中で大事なことを思い出したのだろうポケットから一冊のメモ帳を取り出すと、ペラペラと紙を捲りだす。


