新緑の癒し手


 鋭い爪によって竜の鱗が捲れ剥が落ち、その下の肉の部分が露出する。爪が肌を掻く度に鮮血が飛び散り、ダレスの全身が赤く染まっていく。彼の行動は一向に治まる気配はなく、それどころか呪縛の影響を受けている全ての血を体外に排出しているような雰囲気だった。

「駄目!」

 フィーナは自身の肉体を傷付けてはいけないと懇願しダレスの行動を制するも、彼の行動が止まることはない。長い年月、感情を封じていたことによる反動がそうさせているのか、見たことのない荒々しいダレスの言動に、フィーナは別の意味で恐怖心を覚えてしまう。

 しかし彼の行動を制しなければ、肉体が崩壊してしまう。フィーナは持っていた焼き菓子が入っている紙袋を投げ捨てダレスに抱き付くと、肉体を傷付けてはいけないと言い聞かす。

「お願い……もう……」

「しかし……」

「こんな姿、見たくない」

「ですが、この血で……」

「貴方の苦しみなんてわからないわ。わからないけど、貴方が肉体を傷付けている姿は見たくないのよ」

 言葉と共に両腕に力が込め、フィーナは血で濡れるダレスの胸に顔を埋めると肩を震わせ泣く。彼女が語るのは、愛している者が自分自身の肉体を傷付けている光景を見たくないというもの。また、ダレスの口から尊敬している両親への憎悪の言葉を聞きたくなかった。

 彼女の言葉に、ダレスの手が止まった。そっと視線を下に移せば、衣服を血で濡らしながら泣いている少女の姿が視界に映る。その時、やっと自分が愚かな行為をしてしまったことを知ったダレスは、激しい後悔が渦巻く中でフィーナに「すまない」と、言葉を掛ける。

「もう、二度と……」

「わかっている」

「約束……よ」

「ああ」

「絶対」

「勿論」

 彼女の耳に届く心音は最初せわしないものであったが、平常心を取り戻したのか徐々に鼓動が緩やかになってくる。そのことが嬉しかったのか、フィーナの頬が緩んでいく。それと密着している肌から伝わってくるダレスの体温が心地よく、強い安心感を得ることができた。