新緑の癒し手


 フィーナの言葉のひとつひとつがダレスの感情を刺激し、同時に体内を巡る血に影響を与えていく。自分の意思で制御できない今、身体の変貌は著しくダレスは思わず建物の外へ飛び出す。

 突然の出来事にフィーナも建物の外へ飛び出し、ダレスを見失わないように下草を掻き分けながら後を追う。その途中、彼の身体が別の生き物へ変化していることにフィーナは気付く。鬱蒼とした森の中を逃げるように駆け回っていたダレスだが、開けた場所に到着すると脚を止めた。

 それと同時に彼女も脚を止め、目の前にいる人間ではない別の生き物を見入る。彼女の視界に映り込んでいるのはいつも側にいて自分を守護してくれる大事な存在ではなく、神官が語る話でしか知らない生き物。また、書物の中に書き記されている凶暴とされている存在。

 だが恐怖心は湧かず、それどころか木漏れ日を反射させる緑柱石(エメラルド)の鱗が美しかった。しかし肩口に存在する傷痕が痛々しく、巫女の血を引いているとはいえ痕が完全に消えることはなかった。その傷痕にフィーナの心臓が強く鼓動しあの出来事を思い出してしまうが、頭を振り記憶を消し去る。

「……ダレス」

 そっと相手の名前を呼び、鱗を持つ生き物の前に進み出る。今、彼女が知っているダレスは人間ではない別の姿をしているが、彼女にとってダレスはダレスであり外見は関係なかった。それにここで彼を拒絶してしまえば、手の届かない場所で行ってしまうのではないかと思えた。

 そして震える手で相手の顔に触れ、彼の反応を見る。いつもであったら拒絶反応を取られるのだが、ダレスは彼女の行動を受け入れ静かに佇んでいる。そんな彼の反応が嬉しかったのか、フィーナは身を預けるように寄り添い恍惚に似た表情を浮かべながら顔を埋めていた。

「やっと、貴方に触れられた」

 囁くようにして発せられたのは、彼女の願望。ダレスは血の呪縛の影響を恐れフィーナに必要最低限以外での接触を拒んでいたが、竜の姿をしている今、ダレスは彼女に触れられることを拒絶しない。それどころか目を細め、フィーナに対し優しい眼差しを向けていた。

「こうやって、貴方に触れたかった。でも、それが貴方にとって迷惑になるとわかっていたわ。血の影響で、竜の姿に戻ることを恐れているから。それでも、私は……こうしたかった」

 勿論、フィーナはそれが相手の都合を理解していない一方的な我儘ということはわかっていたが、日々募る想いは抑えることができない。ましてや、村で生活していた頃には全く抱かなかった感情。それがダレスと出会ったことによって溢れ出し、時に感情を昂ぶらす。