新緑の癒し手


「で、ですが……」

「そう言っても心配?」

「森の中で、一人ですから……」

「言ったように、あいつはあいつで自活の方法は弁えている。それに過度に心配すると、自分の身が持たない。で、あの建物があいつが利用しているやつだ。さて、いればいいが……」

 と、呟きつつヘルバは古めかしい建物の中を覗く。しかし建物の中にはダレスの姿はなく、外で作業をしている様子もない。親友の不在にヘルバは何処かに行っているのではないかとフィーナに話すと、すぐに会えると期待していたのか彼女は落胆の表情を作り頷き返す。

「捜してくる」

「わ、私は?」

「中で待っているといい」

「宜しいのですか?」

「共同で利用している、俺がいいと言っているんだ。それにあいつも、駄目と言うわけがない」

「有難う……ございます」

「じゃあ、行ってくる」

 フィーナに向かいそう言い残すと、ヘルバは親友を捜しに森の奥へ分け入っていく。彼の心遣いに感謝するように後姿に一礼すると、フィーナは両手で扉を開き建物の中へ立ち入る。

 無人になって数十年が経過していると聞いていたが、置かれている家具や寝具は真新しい。それに掃除は隅々まで行き届いており、尚且つきちんと整理整頓もされている。建物の利用者ダレスの性格が反映しているのか、建物の内部の状況にフィーナは唖然となってしまう。

 言い方を悪くすれば、生活観が感じられない寂しい空間。本当にこの場所でダレスが生活しているのか疑いたくなってしまうほど、フィーナがいる建物は彼の存在を感じられない。

(……ダレス)

 フィーナは彼が使用していると思われる椅子の背凭れに触れ、普段ダレスがどのように生活しているのか思う。また、誰も訪れない森の中で閉じ篭る生活は寂しくないのだろうか。

 自分に何も語らずに勝手に姿を消したことに、腹立たしい感情がないといったら嘘になってしまうが、彼の血の呪縛を思うと面と向かって罵倒は行えない。それに彼を想うと心がきつく締め付けられ、そして離れ離れになってしまった現状に耐え切れないのか胸元を強く握る。