新緑の癒し手


 彼等が歩いている獣道は歩き難いが、フィーナは不満を漏らすことはない。その健気さにヘルバは休憩した方がいいか尋ねるが、彼女は頭を振り彼の申し出を丁重に断る。そしてダレスに会いたいという気持ちが彼女を奮い立たせているのか、足取りはシッカリしていた。

 ふと、フィーナが疑問を口にする。それは、ダレスが森の中でどのように生活をしているかというもの。彼女の疑問にヘルバは口許を緩めると、古い家を掃除し利用しているのと話す。

 彼が言うダレスが利用している家というのは、以前この森を管理していた樵(きこり)が使用していた家を指す。そしてその樵は数十年前に亡くなっているので、利用にとやかく言う者はいない。また、樵がこの森で生活していたことを知っている者は少なかったので、好都合だという。

 発見当事は長年の放置の影響で室内は荒れ果て汚かったが、森全体が空き家を長年の風雨から守ってくれたのか外見は建築当時の状態を保ち、利用に関しては特に問題はなかった。その後ダレスとヘルバは時間を見付けては二人で家の中を掃除し、利用しているという。

「ヘルバさんも?」

「君が神殿に来る以前から、時々ダレスの顔を見に来ていた。その後、村へ帰るのが面倒の時に利用している」

「でも、宿泊は……」

「俺が、人間の宿に泊まれると思うか? 他の種族を嫌っているんだ、泊めてくれるわけがない」

「た、確かに」

「で、二人で利用しているから生活に困らない程度の物は家に置いてある。だから、心配ない」

「食べ物は?」

「これだけの深い森、それ相応の恵みを齎してくれる。作物を栽培したり家畜を飼育するだけが、食べ物を得る手段じゃない。それに、今はいい時期だ。栄養価の高い実が、多く実っている。だから、心配しなくていい。あいつは、一人の生活が長かったのであれこれと心得ている」

 ヘルバの的を射た意見に、フィーナは多くの恵みを齎す森の中に視線を走らす。歩くことに夢中になっていたので気付かなかったが、青々と茂る木々の間には美味しそうな実が生っていた。

 また、森の中を流れる川には小魚が生息しているのでそれを食料にすることもできる。それにダレスは一人の生活が長いので、料理の腕に問題はない。材料さえ揃えば美味しい料理を拵えることができ、案外悠々自適の生活をしているのではないかとヘルバは笑い出す。