しかし、彼女達に考えがないわけではない。彼女は娼婦という男を手玉に取る術を身に付けている、その道のプロ。日々厳しい訓練を強いられている兵士を落とすのなど簡単だと、彼女達は豪語する。
「強気の発言」
彼女達の大胆発言にヘルバは戦くも、これ以上の味方はいないと考える。男臭い職場での働いている兵士の目の前に、美しい女性が艶めかしく手招きしていたら彼等の理性は崩壊する。
いくら肉体と共に精神も鍛えているとはいえ、相手は健康な男性。中には懸命に理性と戦う者もいるだろうが、全員が全員欲求に勝てるだけの精神力を持っているわけではない。そして統率が乱れれば此方のもので、その隙にフィーナが聖都の外へ逃げ出してしまえばいい。
今回の計画は随分簡単なものであったが、高レベルの勉学を受けたことのない彼女達にとってこれで十分だった。また、下手に細かい部分を決めると混乱を招く原因になってしまうのでこれでいいとヘルバは賛同し、自分は目立ってはいけないと空を飛び聖都の外で待つという。
案の定、彼女達の計画は上手くいく。多くの兵士は娼婦の甘い誘惑に簡単に落ち、夢中になってしまう。鼻血を流しつつ彼女達を眺めている者や、中には刺激が強すぎたのか興奮し過ぎで気絶する者もいた。そして一部の者は鼻息を荒くしつつ、追い回す者も出る始末。
その隙を狙い、フィーナは小走りで門を潜り聖都の外へ無事に脱出する。そして外で待っていたヘルバと合流した後、ダレスが一人で隠れているとされている場所へ急ぐのだった。
◇◆◇◆◇◆
「あいつは、森にいる。だからといって、簡単に立ち入れる場所じゃない。道は、獣道しかない」
ヘルバの話ではダレスがいるのは、鬱蒼とした木々と下草が目立つ深い森の中。人間を襲うような獰猛な野生生物が生息しているわけではないが、日中であっても薄暗く幾重にも枝が重なり合っているので殆んど木漏れ日が射さない。その視覚的要素が恐怖心を煽るのか、人間は滅多に立ち入ることはない。結果、姿を隠すには都合がいい場所となっている。
ヘルバの案内でダレスがいる薄暗い森の中に立ち入るが、人間の手によって造られた歩き易い道が存在するわけではなく彼等が利用しているのは獣道。申し訳ない程度に下草が掻き分けられた細い道だが、無造作に生えている下草を掻き分けて突き進むより何倍もいい。


