それどころか勝手に神殿の外に出たことを多くの者に咎められ、ダレスが一番恐れていた監禁生活がはじまってしまうかもしれない。それでは、ますます神官達に都合のいい状況に置かれる。それに伴い一回の採血の量も増加したら、確実にフィーナの命を縮めてしまう。
味方は少なく、行き交う人々は敵と思った方がいい。フィーナを取り巻く状況に、ヘルバは癒しの巫女を崇め奉る人間の本性を知る。所詮「巫女様」と呼ぶ彼等は言葉を持ち入り相手を敬っているように振舞っているだけで、根の部分では癒しの血を貪欲に求めている。
あいつもそいつも、歩いている老人や子供さえもフィーナを一人の女の子として見てはいない。巫女は体内に流れる癒しの血を流し、それを我々に提供し続けてくれればいい。彼等の本音を明確に代弁するとそういうものだろうと、ヘルバは苦笑しつつ心の中で呟いていた。
「あ、貴女は……」
ふと、若い女の声音がヘルバの耳に届く。その声音が響いた方向に反射的に視線を向け、相手が何者なのか警戒する。幸い、相手は神官ではない。しかし聖都を行き交う人間と何処か雰囲気が違い、どちらかといえば「はみ出し者」という言葉が似合うけばけばしい女だった。
「巫女様?」
「だったらなんだというんだ」
「神殿から逃げ出したの?」
「何が言いたい」
女の言い方に不安感を覚えたヘルバは、フィーナを護るように立ち塞がる。またフィーナは彼女に捕まり神官のもとへ連行されたくないのでヘルバの後方から、相手の出方を窺う。明らかに警戒している二人の態度に女は口許を緩めると、二人にとって衝撃的な言葉を放つ。
「逃げ出したというのなら、協力するわ」
「何?」
「不服?」
「そういう意味じゃない。彼女は、癒しの巫女だ。普通、見付けたら騒ぎ立てるものだろう。それに、俺は……」
「関係ないもの」
「意味がわからない」
何の躊躇いも無く言い切る女に、ヘルバは唖然となってしまう。癒しの巫女が有翼人と共にいる時点で怪しく思い普通の感覚であったら通報していいものだが、女は通報どころか協力すると言い出す。女の真意が読めないヘルバは、彼女に向かい指差すと理由を尋ねた。


