新緑の癒し手


 しかし、全てが順調に進んでいるわけではない。ヘルバにとって一番頭を悩ますのはフィーナの緑柱石(エメラルド)の髪色で、この色を持つ者は癒しの巫女ということを大々的にアピールしてしまう。

 また、血を求める人間が行き来している聖都では彼女の髪色は目立ち、注目の的となる。そして、フィーナの髪色の他にヘルバの存在も大きい。人間と殆んど交流を持たない有翼人が、人間が築き上げた聖都を闊歩している。それも巫女と一緒にいるのだから、反感を買う。

 彼等は、現在フィーナが置かれている状況と心情を知らない。知らないからこそ、有翼人が巫女を誘拐したと勘違いする。だから人目が付く場所を歩くのは危険が多く、捕まってしまう。

 さて、どうすれば――

 ヘルバはその場で立ち尽くすと、腕を組みどのようにして聖都の外へ行く方法を考え出す。本来脱出の前にあれこれと計画を練るものだが、今回は時間がなかったので仕方がない。

 それにフィーナの気持ちを優先し神官の手から逃れなければいけないので、計画を練る時間も惜しかった。計画の不備が多い中で上手く巻いたのは奇跡に近いものだが、いつまでも続くとは限らない。また、圧倒的な人数の差はいずれヘルバとフィーナを追い詰めていく。

「ヘルバさん」

「何?」

「人が……」

 行き交う多くの人間の視線に、ヘルバはフィーナの後方に隠す。幸い癒しの巫女と騒がれることはなかったが、彼女の発見は時間の問題といっていい。といって長い髪を切るように促すのは酷というもので、ヘルバは纏っていた上着を脱ぐとこれを被り髪を隠すようにいう。

「知り合いは?」

「いません」

「いたとしても、神官に通報されるか……」

 互いに知り合い同士とはいえ、人間は巫女の血を第一に優先する生き物。その巫女が有翼人と外の世界に行ってしまえば、自分達の命の危機を防いでくれる人物がいなくなってしまう。それを未然に防ぐというのは建前上の理由で、彼等は自分勝手な動機でフィーナの捕獲に動く。

 真の意味で彼女の心情を理解し、受け入れてくれる人物はいるだろうか。ダレスに近い考え方を持つ人間がいれば話は別なのだが、この聖都にそのような人間が本当にいるかどうか怪しい。だが、フィーナの出身は聖都ではないので、彼女に味方してくれる者はいない。