新緑の癒し手


 何処へ連れて行かれるかわからない不安と神官達に見付かってしまうという恐怖心が入り混じり、フィーナの身体を強張らせる。しかし「ダレスに会いたい」という想いが彼女を突き動かす。

 その途中、フィーナの耳にカサっという乾いた音が届く。聞き慣れない音であったが瞬時に何の音か判断したフィーナは、走りつつ胸の前で大事に抱いている紙袋に視線を向ける。

「ヘルバさん。と、止まって下さい」

「止まったら見付かる」

「ですが、焼き菓子が……」

 身の安全を図る為に人目の付かない神殿の奥へ急ごうとしていたヘルバだが、フィーナの切羽詰った言葉に脚を止める。同時にフィーナは紙袋を開け、焼き菓子が無事かどうか確認する。

 数枚の焼き菓子の角が欠けていたが、幸い食べられないわけではない。ダレスに手渡す大事な焼き菓子が無事なことに安堵の表情を作るが、自分が置かれている状況を思い出すと焦った表情に変化する。

「す、すみません」

「いや、急ごう」

「はい」

 再び走り出し、彼等が向かったのは神殿の一番奥。ダレスの母親ルキアが眠っている墓の近い場所なので、木々が鬱蒼と茂りこの一帯であったら人目に付かず脱出することが可能だ。

「この壁を越えよう」

「ですが、私は……」

「抱えて飛ぶ」

「……重いです」

「大丈夫。たいした高さじゃない」

 そのように言われても自分の体重が気になってしまうので、フィーナは素直に返事を返すことができない。また抱きかかえるということは異性と密着ということで、羞恥心も増す。

 だが、神殿の外へ出るにはこの方法しかない。また、体力がないフィーナが壁を攀じ登るのは危険が付き纏う。最善の選択はヘルバに抱きついて、神殿の外へ出る方法しかなかった。

 フィーナは当初オドオドとした態度を取っていたが、ダレスに会うにはこれしかないと理解したのか頷き返す。彼女からの了承にヘルバは身体を解すように軽くストレッチ運動をすると、軽々とフィーナを抱き上げ両翼を羽ばたかせながら楽々と壁を越え神殿の外へ飛び出す。