「邪魔だ」
「やっぱり、命令が好きだ」
「黙れ」
「そのように筋合いはないね」
「煩い奴だ」
人間――特に神官にいい印象を抱いていないヘルバにとって、その者から一方的に命令されるのは腹立たしい。このまま脚を引っ掛け相手を無様な姿で前のめりに倒してしまいたい心境に狩られるも、流石に相手に怪我をさせては後々問題になってしまうので自主する。
だが、ナーバルをフィーナがいる厨房に侵入させるわけにはいかない。ヘルバは利き手を彼の目の前に突き出すと「進入禁止」ということを態度で促す。ヘルバの行動は特に問題がないものであったが、ナーバルの高いプライドを傷付け予想外の攻撃を誘発してしまう。
ヘルバは、手を上げてきたナーバルの攻撃を寸前で避ける。気に入らない無礼者に一撃を食らわせなかったことが悔しかったのか、避けた瞬間ヘルバの耳に舌打ちのような音が届く。
どのように立派に振舞っていても、このような時に本音が出てしまうもの。ナーバルの本音に気付いたヘルバはフッと鼻で笑うと、どのような理由であっても立ち入りは認めないと力強い口調で言い放つ。また、一方的な命令口調では相手を動かせないと忠告していく。
「それと、女神に仕える神官。暴力を振るうことは、許されないのではないのか? 人間の見本だろう」
「何を言うと思えば、勝手なことを言う。我々は女神に変わって、不浄の者に裁きを与えるだけだ。女神は、人間だけに癒しの力を与えてくださった。いわば、他の種族は見捨てたのだよ」
以前ダレスから人間が「不浄の者」と言っていると聞かされたが、このように面と向かって言われるといい気分がしない。それどころか、怒りの感情がふつふつと湧き出してくる。頭に血が上りやすい者が聞いたら一発攻撃を食らわしていただろうが、ヘルバは感情を堪える。
相手が何も反論してこないことをいいことに、ナーバルの毒とトゲが含む言葉が続く。一方的に批判する言い方であったが、何処か品性が漂うのは流石名門一族の者というべきか。
当初は「好きなように言っていればいい」と軽く聞き流していたが、長く小言に近い言葉を言い続けられると気分がいいものではない。ヘルバの我慢の限界が近付いてきたギリギリの頃、フィーナの焼き菓子がちょうど良く焼き上がりヘルバの感情の爆発を未然で防いだ。


