有翼人の間に宗教というものがないので人間の感覚は理解し難いが、彼等の行動を総合すると自分達が崇めている女神を利用していることになり、いつか痛い目を見るのは彼等だ。
ダレスの話以上に不甲斐なく自分勝手な聖職者の面々に、ヘルバはこのような奴等が強い権力を持っていて人間の世界は大丈夫か不安になってしまう。といって彼等に同情心を抱いているわけではなく、彼等の言葉を正しいものと信じ切っている大勢の人間が可哀想だ。
人間の行く末に付いて思いを巡らしていると、フィーナがヘルバの名前を呼ぶ。何でも生地作りと成型は完了したのだが、思った以上に焼き上がりに時間が掛かり待たせてしまうという。
申し訳なさそうに謝るフィーナにヘルバは、それくらいは気にしないと言い爽やかな笑顔を作る。それに、彼女にダレスと交わした約束を叶えさせてやりたいというのが今の彼の気持ち。
「有難うございます」
「礼はいいから、早く」
ヘルバの言葉にフィーナは、せっせと生地を焼く準備に取り掛かる。村で生活を送っていた頃、食事の準備を手伝っていたので準備の手付きが良く動きに全くといっていいほど無駄がない。
その時、フィーナが焼き菓子を作っている厨房を眺めていた複数の神官は、彼女が火打石を使用しているのを見た瞬間「危ない」と言わんばかりの表情を作り、何処か悲鳴に似た声を発する。
「あれくらいで死なない」
「当たり前だ」
「なら、その声は何だ?」
「我々は、巫女様の身体を心配している。もしものことがあったら、多くの者に顔向けができない」
「だから、菓子作りなど……」
と、ヘルバ相手に好き勝手に言っているが本当にフィーナの身体を心配しているというのなら、採血の量を減らせばいい。血を大量に体外に排出すれば、一歩間違えれば死に直結する。それをわかっていながら大量に採血している点に、やはり彼等は自分優先に動いていた。
何が良くて、何が悪いのか――
簡単に言えば、大人しく部屋の中にいて採血だけ行っていればいい。というのが彼等の考え方。フィーナを「巫女様」と呼び恭しい態度を彼女に示しても結局は腹に一物抱えているのが特徴であり、血が生み出す大金の魔力に酔い痴れ血を失うことを極端に恐れていた。


