新緑の癒し手


「まだいたのか」

「そのような言い方は……」

「今日は気分が悪い。さっさとこの部屋から立ち去れ。お前の顔を見ていると、イライラしてくる」

 父親の辛辣な言動に、セインは素直に従う。現在の状況では何を言っても、父親の神経を逆撫でしてしまう。身の安全を第一に考えるのなら、何も言葉を掛けずに立ち去るのが一番。

 セインは足早に退出すると、圧力から解放されたことに安堵し額に滲む汗を拭う。その後、いつもの彼であったら気分転換を図る為に娼婦のもとへ向かうのだが、今日は父親がいつも以上に機嫌が悪いので珍しく娼館に行くのを諦め、品行方正の名の下に大人しくすることにした。


◇◆◇◆◇◆


「ああ、やっぱり」

「……どうしましょう」

 神官が外出許可を出してくれないことを知ったヘルバは、何処か納得した表情を浮かべていた。一方フィーナは外出許可が得られなかったことに落胆しているのだろう、ヘルバと違い浮かない表情を浮かべ、どのようにしたらダレスのもとへ行けるのか計画を練っていく。

 しかし練ったとことでいい計画が生み出されるわけではなく、最終的に導き出された結論というのは、二人で神殿から抜け出しダレスのもとへ行くというもの。突然フィーナが姿を消したことに神官達が悔しがっている顔を見たいヘルバはそれでいいが、彼女が乗ってくるかどうか。

 そのことに不安を覚えるヘルバであったが、彼の考えとは裏腹にフィーナは「それでいいです」と同調し、彼の意見に従う。また、考えた末の計画であり真正面から立ち向かっても彼等には勝てない。下手すれば玉砕してしまい、ますます物事が悪い方向へ進んでしまう。

「本当に?」

「構いません」

「あいつに会いたいから?」

「はい」

 フィーナの強い決意と想いにヘルバは頷き返すと、二人で神殿から勝手に抜け出すということに決定した。だが、逃げ出す前にやらないといけないことがある。それはフィーナが言っている「再度、焼き菓子を作る」というもので、これだけは叶えてもらわないといけない。