新緑の癒し手


 そして、無表情のままセインと娼婦に視線を落とす。

 勿論、セインの絶叫が響き渡る。

 意気揚々と宜しくやっていたというのに、突然のダレスの登場に気分が落胆してしまう。瞬時に顔を歪ませ毒を吐くが、ダレスがセインの言葉を聞き入れることはない。それどころか、低音の声音が響く。

「お父上がお呼びです」

「あー、またか」

「早急に、お帰りを――」

 と聞いて「はい、わかりました」と言わないのが、セインという人物。ダレスの登場に萎えてしまったといっても、体力は有り余っている。それに楽しんでいた途中なので、最後までやりたいというのが本音。だが、ダレスがそれを許すわけがなく、再び「お帰りを」と、繰り返す。

「お前って、本当に気が利かないよな。こういう場合、最後までやらせてくれるのが普通だけど」

「待つ時間が惜しいです」

「空気の読めない奴だ」

 いいところを邪魔され気分が悪いのか、セインはダレスを指差すと辛辣な言葉を繰り返す。所詮、彼も父親のようにダレスを肯定的に見ておらず、巫女の血を引いた異端の存在と認識していた。しかし、命令は命令なのでダレスは早急にセインをナーバルのもとに連れて行かないといけない。

 この場合「強制連行」という言葉が発動され、無理矢理セインを娼婦から引き剥がす作業が行なわれる。「では、仕方ありません」と、低音の声音が囁かれる。勿論、セインもその言葉の意味を知っているので、渋々ながらダレスの言葉に従うが未練は残る。

「また、来るよ」

 正しい年齢はわからないが、セインを相手にしていたのは二十代前半の娼婦。彼女を相当気に入っているのか口許を緩め相手に最高の笑顔を送るが、相手は何処か冷めていた。疲れたというのが本音なのだろう、決してセインと視線を合わせることはせず、どちらかといえば清々していた。

 セインに対しての娼婦の感想は――

 正直、評判はいい方ではない。

 いや、最悪である。

 彼は一見「美男子」という容姿を持つが、外見と内面が一致することはない。彼は見習い神官として女神イリージアに祈りを捧げるより女を抱く方を好み、このように入り浸っている。それが父親の頭痛の種となっていることを、セインは気付いていない。