「ところで……」
「娼婦の話はなしだ」
「ち、違います。あいつは、何処に行ったのでしょう。姿が見えないのですが。てっきり父上が仕事を命じたのかと思いましたが、話の内容からしてそれは間違いと思いまして……」
「知らん。勝手に出て行ったというのなら、それでも構わん。半端者など、邪魔なのだから」
「確かにそうですが、代わりに……」
「あの者も、追い出さなければいけない。何故、不浄な者が巫女様の側にいる。身の程知らずが」
女神を祀る神聖な神殿に、汚れた生き物がいる自体が有り得ない。だから、不浄なものは素早く排除しなければいけない。彼等にとって人間以外の生き物は存在価値が乏しく、鬱陶しい。そのような者が神殿を徘徊しては神殿の品位が落ちると、ナーバルは吐き捨てる。
その時、部屋の扉が叩かれた。響く音にナーバルは叩く者に言葉を放ち、どのような用事で尋ねて来たのか問う。一方訪問者により話が中断したことに安堵感を覚えたのか、セインの表情から硬さが抜けていた。しかし齎された報告で、別の意味で彼等の表情が変化した。
「それは本当か」
「間違い……ありません」
「実に忌々しい」
齎された報告というのは、フィーナがヘルバと共に外出したいと言っているというもの。息子の素行の悪さにストレスが蓄積し頭を痛めているというのに、この報告により頭痛が増していく。
それ以前に、どうして有翼人と共に出掛けたいと言っているのか理解し難かった。何処かへ出掛けたいというのなら、神官と共に行けばいい。自分達こそが巫女の側にいるのが相応しく、神官という職業に誇りを持っていた。それだというのに、フィーナは有翼人を選ぶ。
その血で人間だけを癒し続ける巫女が、自分達より劣っている種族の者と付き合っているのか。それ以前に、同じ大地に生きていること時点で、鬱陶しい存在と見ていた。受け入れ難い事実にナーバルは歯軋りすると、フィーナの外出を認めてはいけないと命令を下す。
ナーバルの命令に相手は一礼した後、静かに退出する。扉が閉まると同時にナーバルは悪魔のような形相を浮かべ、そして思い通りにならない現実に苛立ちを覚えたのか悪態を付く。今までに見たことのない形相にセインは身震いすると、恐る恐る父親に声を掛けていた。


