新緑の癒し手


 正直、神官達より心根が優しい。

 その娼婦達が勤めている娼館はディアンヌの場末に存在しているので、表側の派手さとは違う独特の雰囲気を漂わせていた。しかし何度もセインを迎えにこの場所に訪れているので、ダレスは独特の雰囲気に慣れ特に感想も無い。それどころか、堂々と娼館に入って行く。

「あら、お迎えかしら」

「……申し訳ありません」

「いいのよ。いつものことだから」

 四十代後半の娼館の女主人サニアが、ダレスにそのように言葉を掛けてきた。サニアの言葉にダレスは無言で頷くとセインを連れて来て欲しいと頼むが、相手は苦笑する。彼女曰く「今、三人目を相手にしている」ということらしいが、情事が終わるのを待つ余裕はない。

「部屋は?」

「いつもの場所よ」

「また、悲鳴が上がるかもしれませんが……」

「別に構わないわよ、物を壊さなければ。貴方も大変ね、こういう役回りを押し付けられて」

「いえ、慣れています」

「本当、大変ね」

 自分が巫女の血を引き尚且つ巫女になれない存在なので、神官達は「嫌がらせ」という形で押し付けているというのは彼等の雰囲気でわかっている。だが、反論は相手に高揚感を与えるので一切行なわない。

 サニアも他の娼婦達同様にダレスに対し好印象を抱いているので、神官達のやり方に嫌悪感を抱いている。しかしそれを言ってはいけないとわかっているので、それ以上の言葉はない。ダレスは軽く頭を垂れると、セインがいつも使用している「例の部屋」へ向かう。

 次の瞬間、ダレスは脚を止めた。

 真昼間から――

 ダレス以外の者がこの声を聞いた場合、そのように表現しているだろう。扉を挟んで聞こえてくる声音は、まさにセインが楽しんでいる証拠。それに彼は、ダレスの気配に全く気付いていない。サニアの話では現在三人目を相手にしているようだが、これほど体力が持つものだと呆れてしまう。

 普段の彼は弱弱しいとまではいかないが、体力勝負した場合ダレスに劣る。軟弱ですぐに根を上げ不平不満を漏らす人物だが、これに限って底無しの体力を見せ付ける特異体質。普通、このようなシチュエーションでは入室し難い状況だが、ダレスは普通に部屋の中に立ち入る。