それに彼女が言っていた「ダレスはダレス」という言葉が嬉しかった。控え目に扉が開かれ、フィーナが部屋に立ち入る。と同時にダレスの姿を目撃したフィーナは、薬瓶と包帯を落としてしまう。彼女の目の前にいるのは間違いなくダレスだが、説明の通り彼の姿は別人だった。
それは、何と表現すればいいのか。だが、恐怖心は湧いてこなかった。姿が変貌していようが相手がダレスだからというのもあるが、それ以上に腕に点在する緑柱石(エメラルド)の鱗が最高級の宝石のように美しく、何より血と汗で濡れているダレスの立ち姿が切なく見えたからだ。
立ち尽くし、ダレスの姿を見続けるフィーナ。語るのに相応しい言葉が見付からないのか、口を開いても言葉が出ない。一方ダレスは彼女が恐怖心を抱いていると勘違いし、視線を逸らす。しかし真実を明かした者と真実を突き付けられた者が抱くのは、互いを想い慕う心。
フィーナは戸惑いつつも、床に落としてしまった薬瓶と包帯を拾う。その時、彼女の視界に映り込んだのは床に飛び散る無数の血痕と、大量に血を吸い一筋の筋を作る彼の脱ぎ捨てられた衣服。
また、部屋全体に漂うのは嗅覚を狂わせるような血生臭い匂い。それは嘔吐感を伴うものであったがフィーナは懸命に耐え薬瓶と包帯を拾い上げると、それを両手でダレスに目の前に差し出しなかなか見付からない言葉の代わりにこの行為自体を彼への信頼の証とした。
「有難うございます」
「傷の手当ては?」
「まだ、終わってはいません。それに貴女様以外に、この姿を見られるわけにはいきません」
「ご、御免なさい」
「何故、謝るのですか」
「いけなかったのかと」
「いえ、そのようなことはありません。この姿のことを貴女に話さなかった、俺が悪いのですから。それと、扉を……」
ダレスの半竜半人の姿に意識が集中していたことにより、扉を開けた状態のままということに気付いていなかったフィーナは慌てて扉を閉めに向かう。それにより作り出されたのは閉鎖空間。その結果、漂う血の臭いは強さを増しそれを苦手としている彼女を苦しめる。
それでもダレスの側にいたいと思うフィーナは何とか意識を保ち続けるがどうやら限界が近いらしく、徐々に顔色が悪くなっていく。彼女の体調の変化に気付いたダレスは窓を開け新鮮な空気を室内に取り込むと、血の臭いを避ける為に窓の側にいた方がいいと彼女を促す。


