新緑の癒し手


「駄目?」

「血の臭いが凄いです」

「平気」

「気絶します」

「大丈夫」

「本当に、貴女様は……」

 採血の恐怖に怯え、血の臭いを苦手としているフィーナ。何を好き好んでか、彼が言うように血の臭いが充満している部屋に立ち入ることを望む。彼女の気持ちを理解できないダレスは入室を拒むが、彼女の気持ちは揺るがない。一瞬、頑固者――と返そうとしたが、彼は言葉を封じた。

 どのような言葉を投げ掛けても、フィーナの信念を曲げることはできない。それなら彼女の意思を尊重し、彼女を受け入れるしかない。また、ダレスは自分の正体を話そうとしていた。あの時フィーナが言葉を発したのでタイミングを失ってしまったが、今それが再び訪れた。

 ダレスは意を決し、自分の正体に付いて語りだす。自分はフィーナと同じ純粋な人間ではなく、別の種族それも人間が恐怖の対象として見ている竜の血を引く半竜半人だということを明かす。

 そして体内に流れる巫女の血の影響で、感情の起伏によって人間の姿を保てなくなってしまう。だから常に感情を封じて過ごし、自身に肉体にかけてある術が解けないようにしていた。

 貴女様が嫌いなのではない。

 そう、ダレスは付け加える。

 自分が感情を表面に出さないことにより、フィーナが不安感を抱いていることは痛いほどわかっていた。わかっていたが術が解けおぞましい姿を晒す方を恐れたダレスは、無表情を続けるしかなかった。しかしそれには理由があったのだと話した今、両者の間に見え隠れしていた物が氷解する。

「ですから、今……」

「竜の姿?」

「半分……ですね」

「見ていい?」

「良いものではないです」

「でも、ダレスはダレスでしょ?」

 本当の正体を聞きながら至って冷静なフィーナに、ダレスは彼女の強さを知る。普通、人間ではない半端者の存在に恐れ戦き冷たく心無い罵声を浴びせるものだが、彼女は真実を受け止める。神殿の中で唯一の味方が彼だけというもの関係しているが、彼女の態度にダレスは何処か安堵していた。