新緑の癒し手


「薬を……」

「薬?」

「それと、多くの包帯が欲しいです。それが今、俺がフィーナ様に言える我儘かもしれません。その……これで宜しいでしょうか。本当はもっと別のことを言えばいいのでしょうが」

「そんなことはないわ。ダレスがそう言って私を頼ってくれることが嬉しいから。今、持って来るわ」

 石造りの廊下に彼女の足音が響き、それが徐々に小さくなっていく。ダレスは彼女の足音を聞きつつ手持ちの道具で治療を開始するが、傷を負っている腕は麻痺しているので、衣服を脱ぐのに手間取る。また限界が近いのか、視界が滲み物体が殆んど認識できなかった。

 その中で、懸命に衣服を脱ぎ捨てていく。同時に衣服が床に落下した瞬間ビシャっと液体が叩き付けられるような音が響き、赤い滴が四方に飛び散り周囲に置かれていた物を汚す。これ以上の出血を防ぐ為に傷口を縫合しないといけないのだが、視界が滲む中での縫合は難しい。

 しかし、出血の量を考えるとぐずぐずしている余裕はない。ダレスは何度も頭を振り薄れいく意識とハッキリとしない視界を正常に戻そうとするが、思ったほどの効果を見せない。

 言うことを聞いてくれない肉体に、ダレスは珍しく悪態を付く。彼の苛立ちは身体全体を刺激し、別の意味で肉体を覚醒させていった。感情の起伏は、ダレスの肉体を竜へと変貌させる。その言葉が示すように彼の皮膚の表面には緑柱石(エメラルド)色の竜の鱗が浮き出し、半竜半人と化す。

 特に怪我を負っている腕の変貌が著しく、肘から下は殆んど竜の肉体に変化し長く伸びた爪は剣のごとく鋭い。覚醒の影響で薄れていた意識と視界が正常に戻ったことにより、変貌していく自身の肉体の状況を知る。だが、見慣れた光景のひとつなのでダレスは冷静そのもの。

 寧ろ、肉体が覚醒し視界が戻ったことの方が喜ばしかった。ダレスは器用に針と糸を持ちいり、傷口を縫合していく。勿論、これで完璧に出血が止まるわけではないが大量出血は防げる。

 次に傷口に薬を塗り、当て布をした後に包帯を巻かないといけない。片腕が麻痺した状態で包帯を巻くのは難儀だが、できないわけではないのでダレスは黙々と治療を続けていく。

 ふと、控え目な声音がダレスの名前を呼ぶ。その主は彼の我儘を聞き入れ、薬と包帯を取りに行ったフィーナ。両方を用意することができたのか、彼女はダレスに部屋に入っていいか尋ねる。それに対しダレスは即答を避け、珍しく曖昧な言い方をするしかできなかった。