新緑の癒し手


 大丈夫か。

 フィーナを勇気付ける言葉を掛ける。すると相手の言いたいことがわかったのか、彼女の身体の震えが止まった。フィル王子は彼女の気持ちに余裕が出たことがわかると、次に違う言葉を掛ける。「早く行った方がいい」そう言い、ダレスのもとへ行くようフィーナを促す。

 フィル王子の言葉にフィーナは大きく頷き返すと、ダレスが流した血の跡を辿るようにして駆け足で神殿の中へ姿を消す。彼女の行動を確認した後フィル王子は、人間が崇める女神イリージアに友の無事を願う。そして無表情のまま、自身は神殿の中に戻って行くのだった。


◇◆◇◆◇◆


 自室の扉を閉めると同時にダレスは崩れ落ち、前のめりで床に倒れてしまう。フィル王子の前では平然と構え会話を交わしていたが、現在の表情は苦痛で歪み大量の脂汗が髪や衣服を濡らしている。そして大量出血の影響で顔色は青白く、肩で何度も呼吸を繰り返していた。

 時間の経過と共に傷口から流れ出る血の量が増し、床に血の池を作り出す。これでは出血多量で死亡してしまうことはダレスも理解していたが、身体が重く言うことを聞いてくれない。

 それでも無理矢理身体を動かし両腕を支えにして起き上がろうとするが、斬られた腕が麻痺しだしたらしく上手く力が入らない。それに体重を掛けた瞬間、傷口から耳触り音が響いた。

(骨まで達したか)

 ダレスは肉を深く抉った程度で済んだと考えていたが、彼の予想に反してフィル王子の剣は肉だけではなく骨まで傷付けていた。幸い骨折は免れたが、これでは完治に時間が掛かる。また、片腕を上手く使えないと生活に支障が出てしまうが、相手を勝たせる為には仕方がない。

(あいつが何と言うか……)

 彼の脳裏に浮かんだのは、親友のヘルバ。その親友の表情は何処か呆れ顔で、今にも何か言いたそうな雰囲気であった。ヘルバの呆れ顔にダレスはフッと苦痛に歪む顔を緩めると立ち上がり、ふら付く足取りで部屋の隅に置いてある箱の側へ行くと中身をテーブルに並べていく。

 彼が箱から取り出しているのは、傷の手当てに欠かせない道具の数々。だが、これだけの深い傷を手当てするには持ち合わせている薬や包帯の量は心許無い。それでも神殿にいる者、特に神官に頼ることのできないダレスにとって、これだけの量で治療するしかなかった。