新緑の癒し手


 だから代わりにダレスを利用し、セインを連れ戻す役割を与えた。今回で、何回目か――それさえ、ナーバルは忘れた。いや、このような人物に記憶の一部を使用するのも勿体無いと彼は思う。

 ダレスは神殿で働いているが彼は神官ではないので、このような役割を与えるにはちょうどいい。それに常に無表情で感情を表面に出さないので、物事に私情を挟まないのが利点だ。

 言い方を良くすれば、彼の私情を挟まない点を評価している――と取れなくもないが、ナーバルの本音は「都合よく利用できる便利な人物」としか見ていない。また「どのような形であっても、利用してくれるだけ有難いと思え」と言っているかのように、ダレスを嘲笑った。

 道具は道具らしく、素直に従えばいい。

 女神イリージアを奉る神官の内面は実にどす黒く、巫女フィーナもある意味で道具と見る。それがナーバルという男の正体であり、聖職者でありながらどこか異質な存在といっていい人物だった。


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 綺麗に舗装されている道を黙々と歩いているのはダレス。彼は今、ナーバルの命令を受け彼の息子セインを迎えに行く途中だった。彼が暮す都市の名はディアンヌ。女神イリージアを祀る神殿が存在する所から、この都市は〈聖都〉と呼ばれ、多くの人間を受け入れている。

 一般的に、ディアンヌに訪れる者は二種類に分けられると人々は言う。女神に祈りを捧げに来た者と、万病の癒す巫女の血を求めてきた者。しかし、中にはそのような者相手に商売を行なう者も集まり〈聖都〉は、様々な顔を見せ、訪れる者が望むモノを提供してくれる。

 それに比例し、この場所に不似合いの人間が大量に溢れ〈聖都〉と呼ばれている都市も裏側に回れば闇の一面を見せる。人間の欲望が入り混じる場所――誰かがそのように表現していたことをダレスは思い出す。

 確かにセインが入り浸っている場所は、人間が持つ欲望のひとつを満足させてくれる場所ではあるが、何故多くの人間が例の場所へ訪れるというのか。残念ながらダレスは、全く理解できないでいた。だからといってナーバルのように、娼婦を批判しているわけではない。

 彼女達はそれ相応のプライドを持ち、娼婦という仕事に挑んでいる。また中には気のいい子も存在し、ダレスが巫女の血を引いている異性であっても普通に接してくれる者も多い。自分達もある意味で異端――その気持ちが働いてか、彼女達はダレスの味方となってくれる。