左肩に食い込む剣が抜かれると、大量の血液が傷口から噴出す。その血の量にフィル王子は顔を歪ませつつダレスの傷口を押さえ止血を試みるが、この程度で止血できる傷ではない。それどころか押さえ付ける手の指と指の間から血が溢れ出し、フィル王子の衣服を汚す。
「誰か、治療を――」
「結構です」
「馬鹿者。このままにしていい傷ではない。今、誰かに手当てをさせる。いいな、これは命令だ」
「その命令、聞くことはできません」
「何故だ」
「これくらいの傷、自分で何とかできます。ですので、殿下がご心配することはありません」
「頼らないのか」
「殿下のお気持ちだけは頂いておきます。ですが、今回は……申し訳ありません。我儘を申します」
出血の量からして、ダレスは深手を負い苦しい状況にあるといっていい。しかし彼はいつもの無表情を崩さず、沈着冷静な態度を取り続けている。それに彼が発している口調も普段と変わらないもので、本当に深手を負っているのかと疑いたくなるほど落ち着いていた。
「お前は本当に馬鹿者だ」
「そうかもしれません」
「ああ、大馬鹿者だ」
信頼できる人物に全てを打ち明けることができれば、どれほどいいものか。それができないダレスは強情とも呼べるが、真実を打ち明けられるほど現実は生易しいものではなくましてや相手は将来一国を背負う身。だからダレスは真実を隠し、相手の言葉を拒絶し続ける。
ダレスは傷口を押さえるフィル王子の手を振り解く形で距離を取ると、使用していた剣を彼に差し出す。そしてフィル王子に向かい恭しく頭を垂れると踵を返し、その場を後にした。
その時、張り詰め空気を切り裂く笑い声が響き渡る。笑い声の主はセインで、ダレスが深手を負ったことが彼としては愉快で面白かったのか、何とも醜く浅ましい表情で笑っていた。
勿論、現在の状況に笑いは不似合い。特に気分を害したのはフィル王子で、彼はセインのもとへ行き剣先を喉元に向けると「何故、笑う」と、問う。脅迫に近い質問にセインは言葉を失い、全身が小刻みに震えだす。また全身から粘り気の強い汗が流れ落ち、血の気が引いていく。


