馬鹿や阿呆と罵らせても、剣の腕前でダレスに適わない点は十分に理解している。この点は利巧と呼べなくもないが、全体の面を総合するとやはりセインは馬鹿や阿呆と呼んだ方が正しい。現に固執している地位を揺るがす娼館通いを止めることができず、父親が匙を投げたくらいなのだから。
セインはダレスが憎らしくて仕方がない。血筋やその他では彼の上を行っているというのに、それ以上の物をダレスは有している。そのひとつが剣の腕前で、今フィル王子と互角以上の戦いを繰り広げている。
それならセインも剣を学べばいいという意見もないわけではないが、このようなことで肉体を動かすのを好まない性格の持ち主で、特に「努力」や「学習」を馬鹿馬鹿しく思っている。
しかし、肝心な部分に気付いていない。「努力」を馬鹿にしている時点で、フィル王子の行動自体も馬鹿にしているということを。フィル王子は、剣の腕前を高めダレスに勝つことを目指し努力している。それがわからないからこそ、セインは他人と見比べ自分の地位を確かめる。
憎悪が溢れた目付きで、ダレスとフィル王子の戦いを眺めるセイン。内心「くだらない」と思うが、相手が相手だけに口を紡ぐ。勿論、彼が勝ちを望んでいるのはフィル王子で、ダレスを徹底的に痛めつけて欲しいと願う。特に重症を負わせれば尚良いと、心の中で笑う。
刹那、セインの願いが現実と化す。何と、フィル王子の剣がダレスの左肩に食い込むという事件が発生したのだ。突然の出来事に誰もが息を呑み、フィーナは両手で口許を覆うと悲鳴を上げていた。
この状況で一番動揺を隠せないのは、フィル王子だった。寸前まで完全に圧倒されていたというのに、何を思ったのか一瞬ダレスが隙を見せる。結果、互いの勝敗が付き血の臭いが漂う。
「……流石です」
「違う」
「いえ、勝ちです」
「貴様」
「どうか、それ以上は……」
彼の言葉にフィル王子は「ダレスが態と負け、自分に勝利を与えた」と、気付く。互いに力を出し合い勝敗を付けることを望んだというのに、相手は手を抜き自分に勝利の二文字を齎す。
望んだ戦いが行われなかったことにフィル王子の身体が怒りで打ち震えるが、血を流すダレスを罵倒するほど愚かではなかった。それに早く適切な処置を施さなければ、彼の左腕は使い物にならなくなってしまう。また腕を伝い滴り落ちる血の量が尋常ではなく、衣服が鮮血で染まっていた。


