新緑の癒し手


 肉体を傷付けろ。

 血を流せ。

 さすれば、相手も満足する。

 幻覚に続き、幻聴がダレスの耳に届く。それは刃に映ったもう一人の自分が本当に言ったものなのか、それとも自分自身の心の叫びなのか……それはわからなかった。わからなかったがダレスはその意見を自分の心情と受け取り、無意識の中で疑問の言葉を発していた。

「いいのか?」

 ダレスの言葉を自分に向けられたものと勘違いしたフィル王子が、満足そうな表情を浮かべている。いつものダレスであったら勘違いをすぐに訂正するのだが、勘違いのままの方が好都合とフィル王子の言葉に返事を返したように振る舞い、正々堂々と闘うことを誓う。

「さあ、はじめようか」

「観客は、主に神官ですね」

「不満か?」

「いえ、その方がいいでしょう。剣と剣の戦い、女子供が見ていいものではありませんので」

「巫女殿は?」

「殿下が誘いました」

「席を外してもらうか?」

「それを言っても、フィーナ様は納得なさらないでしょう。あのように見えて、強情な面がございます。それに今回は、自分の意思で見学なさるようです。無理強いは、嫌がるでしょう」

 生真面目そのもののダレスとは思えない言葉に、フィル王子は声を上げ笑い出す。しかし、その笑いは一瞬の出来事。フィル王子は笑いを止めると、獲物を狩る獣のような瞳をダレスに向けた。これから先笑いは不要と言いたいのだろう、一瞬にして周囲の空気が変わる。

「お前は面白い」

「光栄です」

「言うな」

「殿下の影響です」

「口が達者な奴だ」

 まさに最高の好敵手に相応しい人物に、フィル王子の胸が高鳴る。剣を構え切っ先をダレスに向けるその姿には隙が無く、一流の武人に相応しい。フィル王子の構えに周囲で見守る神官達が一斉に息を呑み、これが対決の合図と知る。次の瞬間、両者の剣が交わり甲高い音色を奏でた。