新緑の癒し手


「何を話している」

「い、いえ。別に……」

「わ、悪い相談ではありません」

 自分の耳に届かぬよう複数の神官がダレスとコソコソと話していることに、フィル王子は不信感を抱く。王子の言葉に神官達は微かに身体を震わすと、言い訳に近い言葉を残し何事もなかったかのようにダレスの側から離れるが、視線で「絶対に負けろ」と、念を押す。

「何の相談だ」

「特に何も」

「隠すことか?」

「神官達は、殿下の身を心配していただけです。貴方様に何かがあったら、大変と申しています」

「なるほど」

「それだというのに、真剣を用いるのですか」

「いけないか?」

「殿下の御心のままに」

 ダレスの言葉にフィル王子はフッと鼻で笑うと、本音を漏らしていた。一国の王子だから守護される立場というのは理解しているが、彼にしてみれば過度な束縛は嫌いという。無論、その行為自体が我儘に該当しなくもないが、彼も感情を持つ者。時に自由を味わいたいが本音。

 それに傷を負ったくらいでどうこう言うほど器が小さいわけでもなく、またフィル王子の父親である国王も息子の性格を熟知しているので、対決によって怪我を負っても処罰は下さないという。

 だから、本気で来い。

 そのように言ってくるフィル王子に、ダレスは何も言えなかった。神官達の命令に従う以前から彼はフィーナに敗北を宣言していたので「本気で来い」と言われても素直に受け入れることはできず、思いを巡らせるのはどのようにして気付かれずに負けるかというもの。

 簡単な方法のひとつに上げられるのは、己の力量を無理に抑え手加減するやり方。しかし以前ダレスと互角に近い勝負を繰り広げたフィル王子ならば、手加減など簡単に見抜いてしまう。だから作戦を簡単に読まれてはいけないのだが、どのような方法を取ればいいのかわからない。

 ダレスは手入れが行き届いている刃に己の顔を映し出すと、もう一人の自分に「どうすれば一番いいのか」と、自問自答を繰り返す。いまだに考えが纏まらない、敗北の方法。改めて知るのは勝つ行為より、負ける行為の方が難しいというもの。刹那、刃に映る自分の口が動いている幻覚を見る。