「私も、無理を言っていることはわかっているわ。御免なさい……いつも貴方に迷惑を掛けて」
「フィーナ様は、俺の笑顔を見たいのですか。言っていることを聞いていますと、そのように捉えられます」
「……うん」
「俺の笑顔を望まなくとも、別の者の笑顔を見ればいいです。フィーナ様の伴侶となられる方の――」
意思を持ってダレスは、その次に続く言葉を止めてしまう。彼が言いたかったのはフィーナの伴侶に相応しい人物が側にいるので、自分にあれこれと構わずその人物に目を向けてほしいというもの。それに現実的に不可能なことを望まれるほど、苦痛に等しいものはない。
自分の身体の状況は、自分が一番わかっている。また人間と竜の中間の姿ほど醜くおぞましいものはなく、その姿を知っているのは両親の他に親友のヘルバしかいない。特にヘルバは親友前提で物事を言い、人間とは違う価値観を持つので彼の言葉が全てとは限らない。
決して自分は、表側の世界に立ってはいけない。明確な意思を正確な言葉と態度で相手に示したわけではないが、ダレスは濁す言葉と雰囲気でフィーナに自分の立ち位置を表した。
共に交わることができれば、どれほどいいものか。しかしその願いは儚く消え、世の中には交じり合ってはいけないモノが存在することをフィーナは嫌でも知る。それがダレスとフィーナの関係であり、互いに体内に巫女の血が流れていようが周囲からの反応は大きく違う。
「フィーナ様は、お優しい方です。どうかその優しさを全ての方に向けて下さい。俺以外に」
彼の言葉にフィーナは何か言い返さなければいけないと思うが、それを遮るようにダレスが深々と頭を垂れていた。明確な身分の差を見せ付けられる恭しい態度に、フィーナの心が締め付けられる。
心臓を幾重にも縛られているような感覚に、言葉を出そうにも上手く言葉として表すことができない。フィーナから言葉がないことにダレスは彼女に視線を合わせないように踵を返すと「自分も支度をしてきます」と言い残し、彼女と共に過ごしていた部屋から退出してしまう。
「どうして」
やっと言葉に出せたのは、ダレスの言葉を受け入れたくないという彼女の気持ちそのもの。彼が言うように「全ての方に」というのならその中にダレスが含まれていていいものだが、彼はそれを否定していた。まるで、自分が含まれてはいけないと言っているかのように――


