「顔色が悪い」
「いえ、何でもありません」
「それならいいが。ところで巫女よ、いい物を見たいと思わないか? 私とダレスの対決だ」
「殿下、貴方は――」
「別にいいではないか。それにお前に負けてばかりいては家臣に示しが付かず、それに私がつまらない。私とて、一度はお前に勝利してみたいものだ。最強の名を持つお前に勝つことは、最高の誉れだからな。それとも、腕が訛ってしまったというのか? いや、お前のことなら腕は訛っていないだろう。それなら、私とお前……対決を行っても何ら問題はない」
「で、ですが……」
「私と戦うのが不服なのか?」
フィル王子の言葉に、ダレスは彼がお忍びで神殿を訪ねた理由を悟った。彼の本当の目的はダレスとの対決で、巫女へ会いに来たというのは建前上の話。確かに訪ねる理由が「ダレスに会う」では神官はいい顔をしないが、相手が巫女の場合神官は顔色を変えることはない。
だが、両者の対決となったら彼等はどのような顔をするか――特に、ナーバルが特に煩い。それなら王子が持つ権力を発動すればいいのだが、好き勝手に権力を行使しないのも彼の素晴らしいところ。
それに新しい巫女の顔を見たいという気持ちも少なからず存在していたが、フィル王子の中での優先順位としては「ダレスとの対決」が第一位に上げられ、フィーナとの会談は二の次。
「躊躇う理由があるのか?」
「それは、ご命令ですか?」
「頼みだ。それとも、命令の方がいいのか? 私はお前に、命令という形を使いたくはない」
「……御意」
ダレスの返事を肯定の意思と受け取ったフィル王子は、好敵手と呼べる相手と対決ができることが嬉しいのか口許が緩んでいく。何の前触れもなく突如決定したダレスとフィル王子の対決にフィーナは動揺を隠せず、互いに怪我なく無事に終了すればいいと願うしかできなかった。
ふと、普段から感情を表情に出さないのでダレスの内面を見極めるのは難しいのだが、今回フィーナは彼が纏っている雰囲気から何かよからぬことを考えていると見抜く。それはフィル王子に危害を加えることを企てているというわけではなく、どちらかといえば思い詰めているといいった方が正しい。しかしダレスとフィル王子の会話に、割って入る勇気はなかった。


