(あの方は……)
ダレスの脳裏に浮かんだのは、フィル王子。一国の王子との婚約が決定すれば、流石に神官達も馬鹿ではないので手出しすることはない。それにフィル王子は人望も篤く心優しい人物なのでフィーナを幸せにしてくれるかもしれないが、問題は両者の感情が一致するか。
一方が熱を上げもう一方が冷めている結婚は、不幸を招く。互いに愛し合っているからこそ夫婦生活が長続きするもので、種族が違う同士の結婚であってもダレスの両親は仲が良かった。そしてその幸せを奪い取ったのは、自分の利益を追求し続け他者を顧みない者達。
思考を巡らしているとダレスは珍しく盛大な溜息を付き、神官達という巨大な勢力に立ち向かうには一人では限界にきているということに気付く。それに、下手すれば種族間の問題に発展してしまう。また、個々の力は小さいが複数集まった時、これほど面倒な種族はない。
といって、自分の味方になってくれる人物は限られている。神殿にいる大半が自分の敵で、己の利益追求という神官としての本来の職務を放棄している者達が目立つ。この現状を女神が黙認しているというのなら、実に「人間にだけは優しい」女神様ということになる。
この世界に生きている者達は全て平等という意見は、幻想か戯言か。いや、妄想の類と表現した方が正しい。現に人間は、一方的に他の種族を見下す。その原因に「巫女の血」が関係し、彼等は巫女の血を独占し続け他の者に与えようとはしない。結果、都合のいい道具と化す。
何故、人間だけに。
他の種族はいいのか。
ダレスは女神が血を与えた理由を考えていく。以前ヘルバに「人間以外に癒しの血を与えないのは、その生き物は汚れているから」と、神官の意見を話した。しかし真の意味で汚れているのは人間の方で、争いに発展しかねないいくつもの火種を作っているのも彼等といっていい。
それでも女神は、再び人間に癒しの力を持つ巫女を与えた。これではダレスが考える「人間にだけに優しい女神」という表現の仕方が当て嵌まってしまう。このように表現したが、本来神は全ての種族に平等に慈悲を与えるものなのだが、これでは差別と罵られても仕方がない。
(まさか)
刹那、身の毛がよだつ考えに行き着き、ダレスは反射的に利き手で反対の腕を力いっぱい握り締める。これにより思考を逸らし考えを消し去ろうとしたのだが、それどころか更に膨らんでいく。彼の考えは、現在の対立構図の裏側には女神の意志が関係しているのではないかというものだった。


