憎悪と、懺悔と、恋慕。


 
 「でも、莉子ちゃんが来てくれて良かったー。 折角今日はすき焼きにしようと思ってたのに、さっき主人から『今日は遅くなる』て連絡来ちゃって。 主人の分もたくさん食べてね、莉子ちゃん」

 木崎センパイのお母さんが、少し残念そうな顔をした。

 でもワタシには好都合で、正直ホっとした。

 ・・・でも、ちょっと待って。

 さっき木崎センパイのお父さんから連絡が来たって言ってたよね??

 ワタシがお母さんに『晩ゴハンいらない』ってメールしたのも、ついさっきだ。

 ・・・嫌な予感がしないでもない。

 お母さんを咎めるワタシがいない事をいい事に、お母さんは今夜、木崎センパイのお父さんと会う気なのでは・・・。

 木崎センパイのお父さんは、ウチのお母さんと食事をしようとしてるワケじゃ・・・ないよね??

 そんな不安は、木崎センパイには言わなかった。

 折角のすき焼きだ。 ちょっとでも楽しく、美味しく頂きたい。

 「じゃあ、遠慮なく。 あ、何かお手伝いする事があれば言って下さいね」

 笑顔を作って木崎センパイのお母さんに向けると、

 「手伝いとかいらないから。 材料切るだけだし」

 横から木崎センパイが、ワタシの社交辞令をバッサリ切った。

 ワタシに手伝って欲しくない事なんか知ってるよ。

 お約束で言っただけじゃん。 そんな風に切り捨てなくてもいいのに。

 ・・・てゆーか、すき焼きも木崎センパイが作るのね。