憎悪と、懺悔と、恋慕。

 

 リビングに通され、またあの高級ソファーに座った。

 ・・・やっぱり、落ち着かない。

 ワタシは今まで『ソファーは寛ぐ為のモノ』という認識で生きてきたけれど、どうやらそうではなかったらしい。

 『滑り落ちるんじゃないか』ってくらい浅ーく腰を掛けていると、

 「チョコ好き??」

 木崎センパイが、ワタシの前にチョコとコーヒーを置いてくれた。

 テレビで特集していた、高級お取り寄せチョコだった。

 木崎センパイの家はお金持ちだから、誰に対してもちゃんとおもてなしするのだと思うけれど、チロルチョコでいいのに。

 「・・・大好きですけど、お気遣いなく」

 ワタシなんかを、おもてなしてくれなくていいのに。

 申し訳ない気持ちが肥大するだけだから。

 「ホントに莉子ちゃんは、礼儀正しくて遠慮深い良い子よねー。 きっとご両親の育て方が良かったのね。 でも、壁作られてるみたいで淋しいから、遠慮なんか全然しないで」

 そう言いながら、木崎センパイのお母さんが、チョコの入ったお皿をワタシの方に寄せた。

 育て方が良かった・・・ワタシを産んで育てた母親は、アナタの旦那様と不倫をしているのですよ。

 苦しくて、益々チョコなど喉を通らない。

 「全然良い子なんかじゃないですよ」

 大事な事をアナタにひた隠す、腹黒い子ですよ。

 「何言ってるの。 莉子ちゃんはとっても良い子よ。 娘に欲しいくらい」

 何も知らずに無邪気に笑う木崎センパイのお母さんに、胸が痛む。

 本当の事を知ったなら、ワタシを娘にしたいなどと思うわけがない。

 『ワタシ、嘘吐けないタイプなんです』なんてアイドルみたいな事を言うつもりはないけれど、きっとワタシは詐欺師にはなれない。

 まぁ、そんなモノになる必要ないのだけれど。

 嘘は、こんなにも辛くて疲れる。

 結構ヤバイよ、木崎センパイ。

 耐えられないよ。