憎悪と、懺悔と、恋慕。



 「・・・じゃあ、ワタシはおいとましますね」

 高そうなソファーにより、緊張しすぎて変に筋肉痛になったお尻を上げて立ち上がった。

 早く帰って、背もたれが3段階に調節出来る安ッいMY座椅子で寛ぎたい。

 「湊、莉子ちゃん送ってきなさい。 その間にカレー作っておくから」

 木崎センパイのお母さんが『行け』とばかりに、木崎センパイの膝を叩いた。

 ・・・いい、いい。 そんな事しなくて!!

 「全然ひとりで帰れますから!!」

 必死に両手を振って拒否。

 だって木崎センパイ、この上なく嫌そうな顔してるし。


 「カレーはオレが作るから。 オレが戻って来るまでオカンは何にもしなくていいから」

 木崎センパイのお母さんにそう言うと、木崎センパイが『行こう』とワタシの背中を軽く押した。

 ・・・え?? 木崎センパイはワタシを送ってくれようとしているの??

 「ハイ、始まったー。 このコ、ワタシが車椅子だからって『料理も洗濯も掃除も全部自分がやる』って聞かなくて。 ほんっとマザコン。 いい加減気持ち悪いでしょー?? ねぇ、莉子ちゃん」

 面白くなさそうにワタシに同意を求める、木崎センパイのお母さん。

 『ねぇ、莉子ちゃん』て・・・。 

 確かに木崎センパイは若干マザコン気味だと思うけど、それは木崎センパイのお母さんの足の事を過剰に気にしているからだからだろうし。

 「気持ち悪くなんかないですよ。 凄く優しいなって思います」

 当然ワタシは優しくなどしてもらえてませんが。

 という言葉は勿論隠しつつ返事をすると、『まぁ、優しいとは思うけどねー』と木崎センパイのお母さんがちょっと自慢気な顔をした。

 自分の息子を褒められるのは、やっぱり嬉しいのだろう。