「ねぇ莉子ちゃん。 ちょっと髪の毛弄ってもいい?? ワタシ、娘の髪の毛結んであげるのが夢だったんだけど、叶わなくって」
木崎センパイのお母さんが、近くに置いてあったゴムを手首に巻きつけた。
・・・弄る気満々だ。
そして、あんな言い方をされては『イヤです』なんて絶対に言えない。
「・・・ワタシの髪なんかで良ければ」
すんなり頭を差し出すと、木崎センパイのお母さんは『やった。 勝手に弄らせてもらうから、莉子ちゃんは気にせずケーキ食べてて』と、ワタシの長めのおかっぱ頭を優しく撫でた。
事実を知ったなら、ワタシの頭なんか触りたくもないだろうに。
・・・黙ったままで良いのだろうか。
騙したままで良いのだろうか。
・・・でも、言えない。
言いたくない。
こんな優しい人を泣かせたくない。
こんな優しい人に、嫌われたくない。



