憎悪と、懺悔と、恋慕。

 
 落ち着きなくソワソワしていると、

 「ゴメンナサイねー。 そりゃ、急に友達の親と二人きりにされたら緊張するわよねー。 でも、ホントに全然気なんか遣わないでね。 ワタシ、湊がお友達を連れて来た事が嬉しくて。 どうしても早川さんとお話したくって」

 木崎センパイのお母さんが微笑みながら、ワタシの前にケーキとコーヒーを置いてくれた。

 あ。 このケーキ、バイト先のケーキだ。

 ワタシは週3で、駅前の美味しいと評判の結構有名なケーキ屋さんで、沙希と一緒にバイトをしている。

 目の前に置かれたケーキは、あのお店で1番高い1ピース¥980。

 さすがお金持ち。 これをサラっとワタシなんかに出してくれちゃうんだ。

 「ここのケーキ、本当に美味しいのよねー。 たまに主人に頼んで買って来てもらうの」

 木崎センパイのお母さんが、嬉しそうにケーキにフォークを刺した。

 『主人に買って来てもらう』 ワタシ、木崎センパイのお父さんを接客した事があったのカモしれない。 でも、あの店は客足が途切れなくて忙しいし、週3しか働いていないワタシは、お客さんの顔をいちいち覚えていない。

 でも、昨日クローゼットから見てしっかり覚えた。

 木崎センパイのお父さんは、きっとまた買いに来るだろう。

 その時、ワタシは笑顔で接客出来るだろうか。