憎悪と、懺悔と、恋慕。

 
 「・・・今日来てもらったのは、オカンの足が悪いのは嘘じゃないって知って欲しかったから」

 木崎センパイが、一瞬で笑顔を消して表情を暗くした。

 「・・・別に、疑ってなんか・・・」

 「・・・うん。 ゴメン。 そういう意味じゃない。 ・・・卑怯なやり方だと思うけど、早川さんに哀れんでもらってでも、協力して欲しいと思ったから」

 木崎センパイがもう一度『ゴメン』と言いながら頭を下げた。


 「・・・オカンの足、ダメにしたの・・・オレなんだ」

 「・・・え??」

 驚いて木崎センパイの方を見るも、彼は俯いていてどんな表情をしているのか分からない。

 「・・・2時間ドラマでよくお目にかかる様な事、ホントにしちゃったの。 ・・・4歳の時にさ、風で飛ばされた帽子を追いかけて車に轢かれそうになったトコをオカンが助けてくれて・・・オレがあの時ちゃんと注意してれば・・・」

 木崎センパイが膝の上で『きゅう』と拳を握った。

 「・・・注意って。 誰も4歳児に注意力なんか求めてないですよ。 誰も木崎センパイが悪いなんて思ってませんよ」

 思わず木崎センパイの握られた拳の上に自分の手を置いてしまった。

 ワタシに手なんか触られたくないかもしれない。

 でも、あまりに話が痛々しかったから。

 だって、木崎センパイは悪くない。 

 ただ、運が悪かっただけ。

 「4歳児だったら、幼かったら親の足を奪ってもいいの?! 違うだろ?! 早川さんは4歳の時に親の足を奪ったりしなかっただろ?!」

 木崎センパイに手を払われてしまった。

 ワタシのやる事は、木崎センパイの気に障ってしまう。

 もう調子に乗らない様にと、ワタシもまた太股の上でスカートを握り締めた。