クローゼットの格子の隙間からは、部屋の様子が見える。
PRESIDENT ONLYの部屋。 待ち人はきっと、木崎センパイのお父さんだろう。
「声出すなよ『ぐぅぅぅぅうううう』
木崎センパイの言葉に被せるように、ワタシのお腹が鳴った。
「・・・スイマセン」
羞恥の余り、木崎センパイから顔を背ける。
しょうがないんだよ。 ワタシ、ほとんどお弁当食べてないんだもん。
「フッ。 弁当、鞄に入ってるんだろ?? 誰もいないうちにさっさと食え。 腹鳴らされると困るから」
さっきまで怖い顔をしていた木崎センパイが、少しだけ笑った。
「・・・スイマセン。 すぐ食べちゃうんで」
急いで鞄の中からお弁当を取り出し、蓋を開ける。
狭いクローゼットの中。 お弁当の匂いが充満してしまった。
「・・・おいしそうな匂いだけど、密室だから篭ってキツイ。 まじで早く食って」
ちょっとだけ笑ってくれた木崎センパイの眉間に、あっと言う間に皺が入った。
あーあ、折角機嫌良くなったと思ったのに。
「ハイ、スイマセン」
また怒らせたくないので、おとなしくお弁当を口に運んだ。



