憎悪と、懺悔と、恋慕。

 
 『はぁ』木崎センパイは、ワザとらしい溜息を吐くと、身体の向きを変え、ワタシの教室の方向に歩き出した。

 ・・・腹立つなぁ。 さっきから何なんだよ、その態度。

 ・・・とも、怖くて言えない。

 教室の前に着くと『早く取って来い』と押し込むようにワタシの背中に圧を加えた。

 『うぉッッ』普通にバランスを崩す。

 ・・・そんな、押さなくてもいいじゃんよ。

 体勢を戻して『急いでますよ』アピールの為、気持ち小走りで自分の席に向かうと、ワタシの前の席の沙希と目合った。

 「告られなかったでしょ」

 沙希が鼻で笑った。

 「・・・何故それを」

 「だって木崎センパイ、アンタとワタシ、どっちが莉子なのか分かってなかったじゃん」

 呆れた表情で頬杖をつく沙希。

 ・・・確かに。 浮かれすぎてて気付かなかったわ。

 「・・・告られるところか、目の敵にされてるよ。 ワタシ、これから髪の毛鷲掴まれて、引きずり回されて、明日には禿げ散らかしてるかも」

 『あぁーーーーーー』と頭を抱えると、『木崎センパイ、物凄い目で莉子の事見てるよ』と沙希が追い討ちをかけた。

 「アンタ、何やらかしたのよ」

 沙希が頭を抱えたままのワタシの手を剥いだ。

 「ワタシじゃない!! でも、木崎家と早川家の名誉の為に言えない!!」

 この秘密は漏らしてはならぬとガッチリ口を噤むも、

 「あぁ。 そーゆー事?? アンタたちの親が不倫でもしてんの??」

 あっさり沙希にバレた。

 何コイツ!! エスパーか!??