「…佐渡翔太って、知ってる?」

芸名だったのは、あたしへの警戒心。

「…しらない」

あたしは震えた声で、そう繋いだ。
わざとでもなく、寒さでそうなってしまった。

彼はあたしの目を見つめた。

あたしは睨むように、彼を見上げる。

そして彼は、何も言わずにあたしの脇の下に手を入れた。
思わず声を上げてしまう。

が、彼は構わずあたしの体を持ち上げた。

「大丈夫だよ」

不審な目で見るあたしを宥めるように、彼は笑った。
彼は傘をさしていない。

後ろを振り返ると、黒の傘が道のまんなかで落ちていた。

「あの…、傘…」
「いいよ、傘なんて」

彼は笑って、寒さで歩けなくなったあたしを支えて歩き出す。

彼の温度が伝わった。


彼は何も言わず、少し歩いて着いた、彼の家にあたしを押し込んだ。

寒い。
自分でも思っている以上に体は冷えきっていて、本当に立つことができなかった。

「とにかく、体を温めないとね」

あたしを引き摺るように、彼は浴室にあたしを突っ込んだ。

「ゆっくりしてね」
「…あなたも風邪引いちゃう」

そう言うと、彼は笑った。

「翔太でいいよ」