店を出て角を一つ曲がる。
そこで翔はようやく女の手を離した。


「な、何するんですか!?」


女は俺達と距離をとって喚き始めた。


「うるせーな。そりゃこっちのセリフだぜ。あんた、翔が止めなきゃ万引きしてたろ。今頃警察のお世話になるとこだったんだぞ!感謝しろよ!」
「だから何なのよ!貴方達に関係ないでしょ!余計なお世話よ!!」
「なっ……この女、可愛げゼロだ!」


わなわなと両手を握り締める横で、まぁまぁと翔は俺を宥めようとする。


「確かに頼まれたわけでもないし、余計なお世話だったかもね。」
「翔!そういう問題じゃ――」
「良いじゃないの、別に。ああ、そうだ。はい、これ。」


翔は女に買ったお菓子を差し出した。


「どういうつもりよ、同情?」
「いや、そう言うんじゃなくて」
「じゃあ何よ!?」
「これチョコレートでしょう?俺もこいつも食べられないから。良かったら貰ってもらえる?」
「そんなのいらな――」
「盗んじゃうぐらい好きなんじゃないの?チョコレート。」
「……っ………」


女は歯を食い縛ったまま、何も反論しなかった。

やれやれと、翔は女の手に無理やりチョコレートを握らせる。


「じゃあ瑞季、帰ろうか。」


歩き出した翔の後を追って、俺も足を動かす。



「馬鹿に……馬鹿にしないで!!」


女の激怒する声にも振り返らず、翔は片手をひらひらと上げたまま、家への道を歩き続けた。