朝、いつもより少しだけドキドキしながら教室に入った。


開け放った窓から、グラウンドの外周を走っている野球部員の掛け声が響く。


5月に入ってだいぶ暖かくなったとはいえ、朝と夜はまだまだ寒い。



始業に中途半端なこの時間、クラスメイトはまばらで武富君の姿も見えない。



武富君はいつも、結構ギリギリに来るんだよね。


クラスメイトがたくさんいる前では話しにくいし、クッキーを渡すとなると狙い目はやっぱり放課後かな。


渡せるかな。


昨日は武富君に借りた小説を読む間もなくすぐに寝ちゃったから、その話題も出せないし。


やっぱり、本をかしてくれたお礼って言うのがしっくり来るよね。



「おはよう、咲彩」



「叶ちゃん!おはよう」



自慢のブロンドヘアをなびかせながら、叶ちゃんが私の前にやって来た。



今日も相変わらず可愛いな。



叶ちゃんは自分の席にカバンを置くと、椅子に座って私の方に体を向ける。



「初の調理部はどうだったー?」



「楽しかったよ。まだまだヘタだけどね」