「どうしたの」
「コ、コウスケ…っ、が…暴れて…」
ずっと走ってきたのだろう。
こういう時に携帯電話があれば、姉が緊急時に走ることも、僕が定期的にコウスケの様子を見に行く必要もないんだろうけど、これらもハネの毒によって使い物にならなくなっていた。
なかなか整わない呼吸の中で必死で言葉を紡いだ。
「鎮静、剤が…、きっ、効かなく…て…」
鎮静剤が効かない?
今までずっと頼ってきた鎮静剤が効かないとはどういうことだろう。
「姉ちゃんは少し休んで。俺が今行くから」
僕はそのままジャケットを羽織り、マスクを付けた。
ナキは出会った時同様、夏物のワンピースにベージュのダッフルコートという妙な格好だが、気にせず手を引っ張り外へ出た。
コウスケが心配で、ナキを引っ張っていることも忘れ走りつづけた。
自分が行ってなにかできるとは思ってなかったが、ただただ心配だった。