春の朝、閑静な住宅街の角に建つ家、

そこの二階で眠っていた少女の目が覚めた。

今までとなんら変わりない朝ではあるが、唯一変わったといえば、今まで肌寒かった朝が、今日はやけに春らしい陽気な事だけだろうか、

その暖かさにあてられて、少女はなんとも言えない幸福感に浸っていると、下のリビングから、朝食の準備をしている音が耳に入ってくるのだ。



(母)「さくら~? 今日はちゃんと朝めし食べていきなさいよ~」



朝食で使うネギでも切っているのだろうか、小刻みな包丁の音とともに、二階に居る少女の名を呼ぶ。

そう少女の名前は「青井さくら」

この物語のヒロインであり高校二年生の女の子だ。



そのさくらは重くて開かない目を擦り、大きなアクビとともに二階から降りてきた。



(さくら)「………眠いのにご飯なんて食べらられないワぁぁ…」



(母)「アンタねぇ… 1日二食なんて続けてたら太るわよ?」



さくらはソファーに座り、リモコンでテレビの電源を付け、4チャンネルに回す。

とくに面白いテレビが朝からやっているわけもなく、ただ、朝は4チャンネルと体に習慣つけられているので、自然と、いや無意識に指は4チャンネルを回してしまうのだ。



(母)「あと、「スーパーサ〇ヤ人」の髪形直しておきなさいよ?」



母親が台所から振り返らず言う、

寝ぐせのついたさくらの髪は、地球の重力を無視して上へと伸びているからだ。

これでは確かに「スーパーサ〇ヤ人(エリート戦士の方)」である。

だが、青井家ではこれがいつもの光景なのだ。

そんな事はさておいて、母親はエプロンを机の上に置き、朝食を詰め込んだ弁当を持って、小言を言うためにリビングに向かうのだった。



(母)「まぁ…あなたが食べない朝食はあなたのお昼のお弁当になるわけですけど、でもねぇ……」



グチグチと話す母親の言葉を無視して、さくらは机に常備されてあるクシを手に取り、上へ上へと伸び上がった長い髪をかき下ろしていた。

小言を言う母親に、口を開くのも眠くて面倒くさいのだ。

そして、これまた机に常備されてある鏡で髪形を確認したさくらは、ソファーから立ち上がり、制服がある隣の部屋のクローゼットの前で制服に着替えた。

そのまま洗面所へと向い、歯を磨き、またソファーで登校の時間をボー…と待つ、



(母)「じゃあさくらー 弁当は机の上に置いてあるからー お母さんもう行くから鍵よろしくね‼…あと、お父さんに線香あげてくのよ‼」



バタバタと玄関で靴を履きながら叫ぶ母、朝から忙しないものだ。



(さくら)「ハイは~い…」



‐ギィィー… バタン‼‐



母親に言われた父親の仏壇を横目に見るが、さくらは線香に手を伸ばすことなく、カバンを肩に担いだ。



(さくら)「……あたしもそろそろ出よ…」



そして、住宅街の外れにあるバス停へと向かって行くのだった。




そこからバスに乗り込み、20分ほどで高校近くの商店街のバス停で降りたさくらは、その高校へと向かって商店街を北へと歩いて行く、

空は雲ひとつ無い快晴の下、目を細めて睨みを効かせ、ヨタヨタと歩く女子高生のさくら、

眠いとはいえこれではまるで「チンピラ」だ、心なしかさくらの周りを人が避けているように見える。



‐バチィィィィンッ!!!‐



(?)「お・は・よ・う!! さくらぁ~!!」



その近寄りがたい「チンピラさくら」に、平然と背中を叩く勇気ある女子高生が現れた。