もう耐え切れずに、待ちくたびれて、前橋との関係が壊れると知っていながら、私はこの話を持ち出した。

 それを彼はまるで分かっていなかった。

 今この瞬間、素直に好きだと言ってしまうのも、次会ったときに言うのも、それは結果としては同じことなのだ。
 ただ前橋の煩悶とした時が長くなるという意味では、後者のほうが辛いのではないか。

 なのに、彼はまた「待って」を繰り返す。

 呆れて、怒りすら通り越して、喉の奥が不愉快に痙攣する。
 不気味な笑いが込み上げてくる。

「俺、今まで、千葉さん以外にも、女友達っていたけど、なんか、違うんだよ……千葉さんは、うん、他の人とは、違うんだ……」

 それは当たり前だろう。
 今まで、私の意見を聞き入れずに自分に都合よく解釈し続けてきたのだから。

 ニヒルに唇の端を吊り上げて、私は鼻で笑い飛ばした。
 前橋が怯えたように息をのんだのが分かったが、もう彼を気遣う余裕はない。

「私は、前橋のことをそういう風に好きかどうか分からなかった」
「俺は、千葉さんに、好きになって、もらいたい……」

「無理よ」

 大きく見開かれた双眸は、汗をかいたグラスを映し続けている。
 その顔、その目――信じられないと声高に叫んでいた。

 その心中、容易に察することが出来る。
 私から告白されると思っていたのだろう。

 そのお門違いの自信は、今から私の怒りの前で粉砕するのだ。

「私は、あなたのその優柔不断さに腹が立つの。いくら待たせれば気が済むの?」
「……急、に、言うから、俺だって」

「急じゃないわよ、私は、三年前から我慢してたの、逆に褒めてもらいたいわ」
 すっかり温くなったコーヒーで喉を湿らせて、一呼吸。