私は中学三年の時、些細なことでクラス全員に無視されるようになった。


いわゆる普通のイジメではなく、誰も私と口をきいてくれないというイジメ。


『私は悪いことはしてない』


そんな自信があったので、一人ぼっちでも平気だった。


けれど、誰も口をきいてくれないという異常な学校生活は、自分が思っている以上に、私の精神にダメージを与えていた。


食欲がなくなり、眠れなくなった。


どんどん体重が落ちていった。


それでも、学校を休むのはイヤだった。


休めば、自分が悪いことをしたと認めたことになるような気がして。



『もう限界かも知れない』


そう思い始めた時、お父さんが一冊のパンフレットを持ってきた。


「由衣。この学校、どうかな?」


それは有名な私立高の入学案内だった。


「学校でイヤなことがあるんなら、環境を変えればいいんだよ」


「お父さん、何で知ってるの?」


「何でもわかるよ。由衣のこと、いつも見てるから」


何でもないことのように、お父さんが笑う。


その笑顔にホッとした途端、ぼろぼろ涙がこぼれてきた。


けれど、パンフレットに書かれている高額な入学金と授業料の欄を見て涙が止まった。


「お父さん。気持ちは嬉しいけど、このガッコ、普通のサラリーマンの娘が行くような所じゃないよ?」


「だからいいんじゃないか。このまま地元の公立高校に行ったら、今の中学と同じメンバーだろ?」


血のつながらない父親の愛情が心に沁みて、私は子供のように泣いた。