それは指だった。
 吸い寄せられるように近づいていく。
 手が見える。腕がある。足もあった。見たこともない履き物と衣類、そして華奢な胴体と頭だ。背格好から考えてアレクシスとさほど変わらない年頃の女の子だった。
 周囲を見回し、何度も見比べる。
 墜ちてきたとおぼしき空を見上げた。折れた枝、空を舞う木の葉、宵闇を飛ぶ鳥の影。獣の姿はどこにもない。一体どこから現れたのか想像もつかない。
 折れた枝を使って、つついてみた。
「うぅ……」
 低く呻いて、振り払うような仕草を見せた。
 うっすらと開いた双眸。瞳の色は『赤』ではない。
 一般的に魔女は燃えるような赤い瞳をしているという。
 魔女では無いようだった。
「だ、大丈夫かい?」
 手を顔に伸ばす。
 浅い呼吸音。まだ息はある。
「しっかりしたまえ! こんな所にいたら、死んでしまう」
 娘は何事か呟いたが、異国の言葉を発し、声も小さすぎてよく聞き取れなかった。全身の打撲と切り傷。少なくとも生きていることを確認したアレクシスは、狐探しを中止して、娘を背負う。朦朧とする意識をつなぎ止めるように、必死に励ましながら野営に戻った。

 翌朝、アレクシスはとんでもない大目玉を食らうことになる。