私を包む腕の中は思いの外温かく、安らかで。

トクトクと耳を打つ心臓の鼓動が心地良い。
白衣から煙草の匂いはせず、仄かに漂ってくるのは保健医らしい消毒液の匂い。本当、偽装工作に抜かりはないようだ。妙に可笑しくなって、声が漏れないよう先生にすり寄って静かに笑った。

「……お前、もう自分が嫌いとか言うなよ。別に好きになれとは言わない。けど、否定はするな。俺はお前を認めてるし、他にもそういう奴はいる。それはわかっとけ。それでも嫌になったらその時は、俺のとこに来ればいい」

抱きしめたまま、先生は力強くそう言った。

「……それ、殺し文句じゃないですか」

ずるいと思う。私ばかりが与えられている気がする。

「悪くねえだろ」

私の頭上で、先生は得意気に笑った。
張り合う事ではないかもしれないが何だか悔しいので。

「……先生、私、これからも自分が嫌で嫌で堪らなくなる時があると思います。沢山、後悔するかもしれません。でも、先生がいてくれたら、何とかなっちゃう気がするんです。変ですよね、私自身は何の力もない人間なのに。スーパーマンにでもなった気分です。だから……先生。先生にとっても、私がそういう存在であればって思うんです。私じゃ力不足かもしれません。だけど……私がそう思ってるって事は、忘れないで下さい」

それは、面倒くさがりなこの人と無期限で付き合っていく私なりの覚悟。また、決して器用ではない、この人の傍にいたいという、密かな意思表示。

楽しそうに口角を上げ挑戦的な瞳を向ける先生を見上げて、

「末永く、よろしくお願いします」

私は満面の笑みを浮かべた。






【End】















◆加賀 伸一郎 (27)
 煙草と珈琲を好む似非保健医
 眼鏡白衣着用 黒髪
 自分のペースを確固たるものにして
 いるが案外不意打ちには弱かったり

◆原田 香月 (18)
 やたらと真面目な高校三年生
 制服は着崩さない
 黒髪のロングストレート
 同学年他教師・後輩からの人気も高し