電話を終えると、携帯を握り締めていた手が小刻みに震えていて。


それはまるで、彼に対しての危険を暗示するよう・・・




指定された待ち合わせ場所は、老舗として名高い超高級ホテル。



スイートに通された私は、所在なげにソファに腰掛けたものの。


高層階から臨む景色が、さらに“無”を助長させていた。


拓海がいなければ、何も生まれて来ないと・・・




ガチャ――

重厚な扉が開く音で、慌ててソファから立ち上がった。



「蘭、待たせたね?」

颯爽とした足取りで現れ、弧を描き笑い掛けて来る。


「い、いえ…」

軽く頭を振ったあとで、平身低頭に一礼する私。



「まったく…、ホントに他人行儀だな?」

そんな態度が、彼には気に食わなかったようで。


「っ……」

微笑というモノが、恐怖心を煽り立てた。



拓海とは全く違う、裏を漂わせる無表情さ・・・


彼への嫌悪感は、否が応にも駆け巡る。



「それにしても……

今日は東条くんと一緒に、出張だったよな?

こんなに早い時間に、戻れた理由は――?」


「ッ……」

笑顔を貼りつけた表情で、瞬時に凍てついていく。



いよいよ、逃げ道が無くなった――