彼が女性を抱く時は、いつも桜子さんの代わり。  ぎゅっと強く目を瞑り、彼の視線から逃れるように身をよじらせる。

いつもの癖で、どうにかして彼の視線から逃れられるようにしたが、業因に腰元を掴まれる。

「ねぇ、逃げないで。 もっと雪穂の事ちゃんと見せて。 雪穂にも俺の事ちゃんと見て欲しい。
いつもいつも思ってた。  君はいつも俺を見ようとはしないから、今日は君を真正面から抱きたいんだ」

「かいほ……」

彼に抱かれ、彼の瞳を見つめながら
一晩中シーツの波に呑まれていた。  ぼやける視界の中、何度も願ってはいけない事を願ってしまう――

あなたの腕に抱かれて、全てを忘れてしまいたい夜があるの。
桜子さんの事も、愛し合った二人の結婚ではなかった事も
海鳳には決して愛されない自分の事も、全て忘れてしまいたかった。