どこまでも緑深く、神秘的で奧まで行くのがちょっぴり怖い。そのお庭も童話に出て来る迷いの森の様だった。

足を踏み入れるとその時期は秋だったので、紅葉と庭の調和がひと際美しい時。

その中でも特に目を惹いたのは、淡い色濃い色様々な色をつけて秋風に揺れる可愛らしい花、コスモスだった。

マンション暮らしで普通の主婦だった母が、早乙女夫人の開いたホームパーティーに呼ばれた理由を幼い私は知らなかった。

広い室内の中ではピアノの演奏会が開かれていて、そこでは私よりも大分年上の白いワンピースを着ていた少女が鍵盤を叩いていた。

母が知人と話している隙に室内から抜け出し、どこまでも花が咲き乱れる庭を一人歩いている時も僅かにピアノの音色は響いていた。

大きくなった今でも、あの美しいピアノの音と曲を忘れる事は出来ない。

白、淡いピンク、濃いピンク。 秋の風に乗ってそよそよと揺れているその花を、少しだけ背伸びして手を伸ばそうとした時後ろに濃い影が重なった。

「何しているの?」

声を掛けられるとびくりと肩を揺らして、恐る恐る振り返って影の主をゆっくりと見上げる。
その姿に一瞬にして目が奪われ、瞳の中に星がちかちかしたような眩しさを感じる。